アベリストウィス(Aberystwyth)の町にあるウェールズ国立図書館(The National Library of Wales)は、世界有数の偉大な図書館のひとつです。ここには、600万冊以上の書籍、数千点もの重要な芸術作品、そして数えきれないほどの記録文書が収蔵されており、これらは私たちの国の集合的な記憶を形成する、巨大な情報の宝庫となっています。
ウェールズの歴史に興味を持つ人々にとっての大切な財産であるだけでなく、示唆に富んだ展示、美しい建築、そして併設されている居心地の良いカフェなど、この図書館自体が素晴らしい観光名所でもあります。ウェールズでの冒険に向けた、申し分のない序章を提供してくれる場所なのです。
ことのはじまり
18世紀から19世紀にかけてウェールズでは、この国の重要な文化遺産を保管・展示するのに適切な場所が不足していることについての不安が高まっていました。ウェールズ語の重要な文書や芸術作品が分散し、国外の収集家や博物館に売却されるリスクが生じていたのです。
この問題の解決策として、19世紀後半にウェールズが国立図書館と国立博物館を建設し、国の宝を国内に保管して、ウェールズ国民が享受できるようにすることが決定されました。
アベリストウィス vs カーディフ
これらの新しい建物の場所を選ぶ際に、その当時都市の地位を獲得し、ウェールズの首都になろうとしていたカーディフ(Cardiff)と、国内最古の大学がある町アベリストウィス(Aberystwyth)の間で激しい争いが繰り広げられました。
大学がすでに重要なウェールズ語の文書の収集に取り組んでいたことや、地元のジェントリ(地主階級)のメンバーの一人が建設用の土地を寄付する申し出をしていたことから、最終的に新しい図書館の所在地としてアベリストウィスが選ばれ、一方でウェールズ国立博物館(the National Museum of Wales)はカーディフに建設されることになりました。
この図書館は、1907年に王室勅許によって正式に設立され、1911年にジョージ5世によって大規模な専用施設の礎石が据えられました。10万人を超える一般のウェールズ市民からの寄付によって一部の資金が賄われ、大規模な建設プロジェクトを経て、図書館は1916年に、ペングライスの丘(Penglais hill)にある現在の場所で一般公開されました。
避難場所として
第二次世界大戦中、この図書館は英国の最も貴重な芸術作品の一部を保管するのに適した安全な避難場所と見なされ、重要な役割を担いました。この町が田園地帯にあり、空爆の標的になる可能性が低いと考えられていたからです。
大英博物館やアシュモレアン博物館(英国初の公立博物館)、ケンブリッジのコーパス・クリスティ・カレッジなどの名高い施設から、何百もの重要な歴史的遺物が梱包され、保護のために図書館に送られました。
その中には、イタリア・ルネサンスの画家ミケランジェロの絵画や、レオナルド・ダ・ヴィンチの素描、そして1215年のマグナ・カルタ(王権が法の下にあることを初めて宣言した文書)の原本などが含まれており、これらは全て、図書館の隣に特別に建設された洞窟のようなトンネルに保管されました。このトンネルの外側の入口は、現在も見ることができます。
近代的な図書館
ウェールズの国立法定納本図書館として、現在この図書館は、英国およびアイルランドで出版されたあらゆる書籍、地図、雑誌、新聞のコピーを請求する権利を持っています。その結果、現在この建物には600万冊以上の書籍に加え、数千点の地図や写本、芸術作品が収蔵されており、さらに数百時間にもわたる記録映像や音声記録も保管されています。
訪問者は、図書館のコレクションの中から資料をオンラインでリクエストし、専用の閲覧室で閲覧することができます。閲覧室は月曜日から土曜日まで開いており、オンライン登録後は無料で利用可能です。広々とした格式有る高天井の空間には、中央のインフォメーションデスクを囲むように多くの机が配置されており、学習や作業をするのに最適な、雰囲気のある場所となっています。
図書館の他の見どころには、ギャラリーや展示室があり、そのうちの1つは図書館が所蔵する最も貴重な資料の一部を定期的に展示しています。また、敷地内にはスープやサンドイッチ、自家製ケーキを提供する「ペン・ディナス・カフェ(Pen Dinas Café)」、ライブラリー・ショップ、そして子ども向けの小さな遊び場も併設されています。
さらに、図書館では定期的にイベントが開催されています。ディラン・トマスに関する討論会から、男声合唱団によるコンサートまで、これらのイベントは通常、館内の100席を擁する講堂で行われています。
収蔵品の中でも特に貴重なもの
図書館が過去100年にわたって収集してきた膨大な資料の中には、国宝とされるアイテムが多数あり、その多くは定期的にヘングルツ展示室(the Hengwrt exhibition room)で展示されています。
16世紀に遡り、ウェールズ語で印刷された最初の書籍と考えられている『ア二・リーヴル・フン(Yny lhyvyr hwnn)』は、まさにそのひとつです。また、中世で最も有名な英国の詩人、ジェフリー・チョーサーによる『カンタベリー物語』の写本である『ヘングル・チョーサー('Hengwrt Chaucer')』も同様です。この写本は、ユネスコによって、英国の文化遺産にとって重要とされる人工遺物を保護するための英国世界記憶遺産(UK Memory of the World Register)に登録されました。
当然のように、ここにはウェールズの歴史に深く結びついた遺物も数多く収蔵されています。その中には、ウェールズの国歌「ヘン・ウラッド・ヴァーン・ハーダイ(Hen Wlad Fy Nhadau)」の原語の歌詞と楽譜、ディラン・トマスによって描かれた、彼の作品の中で最も有名な『アンダー・ミルク・ウッド(Under Milk Wood)』の舞台となる架空の町の手描きのスケッチ、そして英国の名高い画家J.M.W.ターナーによるウェールズの風景を描いた2枚の水彩画が含まれています。
家系調査の支援
この図書館が多くの訪問者を惹きつける理由のひとつが、ウェールズにおける家系調査の主要な保管場所としての役割です。膨大な数の記録が用意されており、長い間行方不明になっていたウェールズの親戚を探すことに興味のある人々にとって、非常に貴重な情報源となっています。
この図書館には、膨大な数の出生、死亡、婚姻記録、犯罪記録、国勢調査の書類、そして歴史的地図のコレクションが収蔵されています。訪問者はこれらを自由に閲覧でき、常駐している知識豊富なスタッフが手助けをしてくれます。
また、ここには、50万件以上の過去のウェールズ国内のテレビやラジオのクリップを収めたデータベースである、新しい放送アーカイブも保管されています。これは英国初の試みです。
障壁を取り除く
図書館は、すべての人にとってアクセスしやすい施設となるよう努めており、スロープやエレベーター、車椅子のレンタルサービス、バリアフリートイレなどを完備しています。そのため、現在では館内のすべての公共エリアを、車椅子で利用できるようになりました。
さらに、図書館のコレクションのデジタル版を閲覧できるシステムでは、文字の読み上げや拡大サービスが利用可能で、インフォメーション・パンフレットも大きな文字版や音声テキスト版でも提供されています。
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