ウェールズの偉大な詩人、劇作家、作家の中から注目すべき人物を数人だけ選ぶのは至難の業です。過去から現在に至るまで、そのほんの一部をご紹介しましょう。
ロアルド・ダール(Roald Dahl)
カーディフのランダフ(Llandaff)でノルウェー人の両親のもとに生まれたロアルド・ダール(1916年‐1990年)は、世界中で2億5000万冊以上の本を売り上げました。彼は大人向けの小説や短編小説も書きましたが、ダールの最たる不朽の名作には、『チャーリーとチョコレート工場(Charlie and the Chocolate Factory)』や『ジャイアント・ピーチ(the Giant Peach)』、『The BFG』、『マチルダ』など、子どもたちに愛される作品があります。また、ダールは優れた脚本家でもあり、『チキ・チキ・バン・バン(Chitty Chitty Bang Bang)』やジェームズ・ボンド映画『007は二度死ぬ(You Only Live Twice)』の脚本も手がけました。ダール一家が礼拝していたカーディフ・ベイのノルウェー教会は現在、芸術センターとなっており、近くの広場は彼に敬意を表してロアルド・ダール・プラスと名付けられています。
ダールとウェールズの繋がりについてさらに詳しくご覧ください。
ディラン・トマス(Dylan Thomas)
ディラン・トマス(1914年‐1953年)はスウォンジーで生まれ育ち、その眩いほどに独創的な言葉遣いで、20世紀を代表する詩人の一人となりました。彼の最も有名な作品には、「声の演劇」である『アンダー・ミルク・ウッド(Under Milk Wood)』や、『穏やかな夜に身を任せるな(Do Not Go Gentle Into That Good Night)』、『ファーン・ヒル(Fern Hill)』といった詩があります。トマスは米国で定期的にツアーをし、ビート・ジェネレーションに大きな影響を与えました。スウォンジーのディラン・トマス・センターには、この詩人に関する常設展示があり、毎年フェスティバルが開催されています。また、隔年開催のディラン・トマス賞は、トマスが亡くなった年齢である39歳以下の作家に贈られます。トマスは、彼が晩年を過ごしたラーン(Laugharne)の教会墓地に埋葬されています。
ディランとラーンについてさらに詳しくご紹介します。
R・S・トマス(RS Thomas)
詩人ロナルド・スチュアート・トマス(1913年‐2000年)は、ウェールズ語とウェールズ文化の熱心な、時には過激なまでの擁護者でした。しかし彼は、見事な英語で作品を書き、50年の執筆キャリアで20冊以上の詩集で1,500篇以上の詩を発表しました。カーディフで生まれたトマスは、英国国教会の司祭として働きながら、ウェールズ北部や西部の教区に次々と移り住み、ついにそれ以上進むことができなくなると、リン半島の最西端にあるアベダロン(Aberdaron)に落ち着きました。同姓のディラン・トマスとは異なり、R・Sの詩は、簡潔でありながら非常に美しい言葉を駆使しています。彼は1964年に詩の分野で女王のゴールド・メダルを受賞し、1996年にはノーベル文学賞にノミネートされました。
ジャン・モリス(Jan Morris)
ジャン・モリス(1926年生まれ)は、世界中のあらゆる場所を旅してきましたが、彼女の初恋の対象は依然として変わらず「じめじめしていて、挑戦的で、そしてやみつきになるほど興味深い国」ウェールズです。モリスは、兵士、ジャーナリスト、旅行作家、歴史家と、多岐に渡って活動してきました。1953年、タイムズ紙の記者として働いていた彼女は、エベレスト登頂の報道という20世紀の大スクープを手にしています。40冊を超える本を著した彼女は、現代を代表する旅行作家と称されています。
オーウェン・シアーズ(Owen Sheers)
オーウェン・シアーズ(1974年生まれ)は、小説家、詩人、劇作家、そしてテレビやラジオ司会者としての顔を持ちます。フィジーで生まれ、アベルガヴェニー(Abergavenny)で育った彼の詩や小説は、しばしば彼が育った田園風景を想起させます。しかし、彼の作品を際立たせているのは、その多様性と野心です。シアーズは俳優のマイケル・シーンと協力し、2011年の復活祭の週末にポート・タルボットで公開された、3日間にわたる受難劇を創作しました。彼の詩劇『ピンク・ミスト(Pink Mist)』はブリストル・オールド・ヴィックで上演され、批評家から絶賛されました。また、BAFTAにノミネートされた映画詩『ザ・グリーン・ホロウ(The Green Hollow)』は、アベルヴァン災害の悲劇を扱った作品です。彼は現在、スウォンジー大学のクリエイティビティ教授を務めています。
ジリアン・クラーク(Gillian Clarke)
カーディフで生まれ、現在はケレディギオンに住んでいるジリアン・クラーク(1937年生まれ)は、2008年に第3代ウェールズの国民的詩人に選ばれました。彼女の作品は10ヵ国語に翻訳されており、詩の分野で女王のゴールド・メダルを受賞しています。彼女はまた、ラジオドラマや演劇の脚本も執筆し、ウェールズ語の詩や散文の英語翻訳も手がけています。ウェールズ国立劇場から委託された作品『ザ・ギャザリング/アル・エルヴァ(The Gathering/Yr Helfa)』は、2014年にアル・ウィズヴァ(Yr Wyddfa:スノードン山)で上演されました。彼女はまた、北ウェールズのラニスティムドゥイ(Llanystumdwy)にあるウェールズ国立ライティング・センター「ティ・ネウィズ(Tŷ Newydd)」で、定期的に詩のマスタークラスの講師を務めています。彼女の最新作は、7世紀のウェールズの詩『ア・ゴドディン(Y Gododdin)』の翻訳で、これはアーサー王に関する最古の記述を含んでいます。
イヴォー・アプ・グリン(Ifor ap Glyn)
イヴォー・アプ・グリン(1961年生まれ)は、現在のウェールズの国民的詩人です。ロンドンでウェールズ人の両親のもとに生まれた彼は、詩人、司会者、監督、プロデューサーとして数々の賞を受賞しています。また、ナショナル・アイステッドヴォッドで、このフェスティバルの中でも最も権威ある賞のひとつ、「クラウン」を二度にわたって受賞しています。彼はカーナーヴォン(Caernarfon)在住で、ウェールズの詩をウェールズ語と英語の両方で世界に向けて表現してきました。ワシントンD.C.のスミソニアン・フォークライフ・フェスティバルなどのフェスティバルでもパフォーマンスを行っています。
ダヴィッド・アプ・グウィリム(Dafydd ap Gwilym)
ダヴィッド・アプ・グウィリム(14世紀頃)は、中世ヨーロッパで最も偉大な詩人の一人であり、アベリストウィス近郊の貴族の家に生まれました。彼の詩は約170篇が現存しており、活気と力強さに満ちています。愛や性をテーマにしたものが多く、いくつかの作品はあまりにもあっけらかんとして猥雑であるため、最近になってようやく詩集に収録されました。彼は1350年頃に亡くなり、ケレディギオンのストラタ・フロリダ修道院と、カーマーゼンシャーのタリー修道院がそれぞれ、彼の埋葬地を主張しています。
サラ・ウォーターズ(Sarah Waters)
ペンブロークシャーのネイランド(Neyland)で生まれたサラ・ウォーターズ(1966年生まれ)は、デビュー小説『ティッピング・ザ・ヴェルヴェット(Tipping the Velvet)』で1999年のベティ・トラスク賞を受賞しました。この小説は、レズビアンの主人公たちを描いた、ヴィクトリア朝の社交界を舞台にしたゴシック・ドラマシリーズの最初の作品です。さらに、『フィンガースミス(Fingersmith)』『夜警(The Night Watch)』『リトル・ストレンジャー(The Little Stranger)』の3つの小説が、いずれもマン・ブッカー賞にノミネートされました。ウォーターズの6つの小説すべてが映画やテレビで映像化されています。
ヘズ・ウィン(Hedd Wyn)
兵士であり詩人のエリス・エヴァンス(吟遊詩人ヘズ・ウィンとして知られています)は、ウェールズ文化において重要な存在です。1917年のナショナル・アイステズボッドで、アーチドルイドが優勝した詩人の名を三度呼びましたが、誰も前に出てきませんでした。その時彼は、この詩人が6週間前にパッシェンデールの戦いで戦死したことを厳かに告げ、椅子には黒い覆いがかけられました。この1917年の祭典は、今でも「アイステドヴォッド・ア・ガダイル・ディ(Eisteddfod y Gadair Dd)」、すなわち「黒い椅子のアイステズボッド」として知られています。トラウスヴェニズ近郊にある、この詩人の家族が営んでいた農場「アル・アスグルン(Yr Ysgwrn)」は現在ビジターセンターとなっており、彼の生涯と遺産についての展示が行われています。
ケイト・ロバーツ(Kate Roberts)
20世紀のウェールズ語文学の第一人者であるロバーツ(1891年生まれ)は、「ブレンヒネス・エイン・レーン(Brenhines ein llên)」、すなわち「私たちの文学の女王」として知られています。彼女はカーナーヴォン近郊で生まれ、南ウェールズの様々な学校で教師として働いていました。『テ・アン・ア・グリーグ(Te Yn y Grug)』(ティー・イン・ザ・ヘザー)や『ファイル・ゲイアヴ・ア・ストリアイ・エルアイス(Ffair Gaeaf a Storiau Eraill)』(ウィンターフェアとその他の物語)などの短編小説で知られていますが、『トラエド・メウン・カフィオン(Traed Mewn Cyffion)』(鎖につながれた足)といった小説も執筆しています。ロバーツの作品の多くは他の言語にも翻訳されています。
ウェールズにはまだまだたくさんの偉大な文学者たちがいます…
- ダニー・アブス(1923年‐2014年)— カーディフ生まれの詩人、小説家、医師。
- アネイリン(6世紀)— 彼の叙事詩『ア・ゴドディン(Y Gododdin)』にはアーサー王に関する最古の記述が含まれています。
- トレッツァ・アッツォパルディ(1961年生まれ)—マルタ系の血を引くカーディフ生まれの小説家。彼女の小説『息をひそめて(The Hiding Place)』は2000年にブッカー賞にノミネートされました。
- アレクサンダー・コーデル(1914年‐1997年)— 小説『レイプ・オブ・ザ・フェア・カントリー(Rape of the Fair Country)』は、産業革命期の南ウェールズの渓谷を舞台にした小説の、最初の作品です。
- アンドリュー・デイヴィス(1936年生まれ)— 独創性豊かな脚本家であり、テレビドラマの帝王でもあります。彼のヒット作には『ブリジット・ジョーンズの日記(Bridget Jones’s Diary)』『高慢と偏見(Pride and Prejudice)』『情愛と友情(Brideshead Revisited)』『ハウス・オブ・カード(House of Cards)』などがあります。
- ラッセル・T・デイヴィス(1963年生まれ)—『クィア・アズ・フォーク(Queer as Folk)』やリバイバル版『ドクター・フー(Doctor Who)』などの作品を手がけた、テレビ脚本家兼プロデューサー。
- W・H・デイヴィス(1871年‐1940年)— 「もし心配事ばかりで、立ち止まったりじっと見つめていられる時間がなかったとしたら、この人生とはいったい何なのだろうか」という詩句で有名な放浪詩人。
- カラドック・エヴァンス(1878年‐1945年)— ウェールズの宗教と教育に対する痛烈な批判が、今なお物議を醸している先駆的なアングロ・ウェルシュ作家。
- ケン・フォレット(1949年生まれ)— 全世界で1億6千万部を売り上げた、スリラー作家。
- ジョージ・ハーバート(1593年‐1633年)— モントゴメリー生まれの形而上詩人、司祭、神学者。
- アリン・ルイス(1915年‐1944年)— 第二次世界大戦時代を代表する詩人で、ビルマで戦死しました。
- モンマスのジェフリー(11世紀/12世紀)— 中世の歴史家、年代記作者。
- ヨロ・モルガヌグ(1747年‐1826年)— 古物収集家、詩人、噺家、そして現代のナショナル・アイステッドヴォッドの創設者。
- フィリップ・プルマン(1946年生まれ)—『ライラの冒険(His Dark Materials)』三部作の作者で、ハーレックの学校アスゴル・アルディドウィに通っていました。『ハミルトン(Hamilton)』の製作者であるリン=マニュエル・ミランダ出演のテレビドラマ版がウェールズで撮影されています。
- ベス・リークルズ(1995年生まれ)— 十代で出版界に旋風を巻き起こしたデビュー作『ザ・キッシング・ブース(The Kissing Booth)』がNetflixで映画化されました。
- バーニス・ルーベンス(1923年‐2004年)— 1970年にマン・ブッカー賞を受賞した最初の女性。
- バートランド・ラッセル(1872年‐1970年)— 哲学者、論理学者、数学者、歴史家、作家、社会批評家、政治活動家、そしてノーベル賞受賞者。
- タリエッスィン(6世紀)— ポウィスやヘン・オグレズ(Hen Ogledd:現在のイングランド北部とスコットランド南部の一部)のケルト系英国人の王に仕えた宮廷詩人。
- エドワード・トマス(1878年‐1917年)— ロンドン生まれのウェールズ系エッセイスト、批評家、詩人で、フランスで戦死しました。
- ヘンリー・ヴォーン(1621年‐1695年)— ブレコンシャー出身の形而上詩人で、ワーズワースやテニソン、サスーンに称賛されました。
ウェールズの偉大な作家たちにインスピレーションを与えた場所について、より詳しく知りたい方はVisitWales.comをご覧ください。