気候変動が私たちの生活を一変させるこの世紀に対し、私たちはどうすれば自然とのつながりを取り戻し、バランスを回復できるのでしょうか?それが、ウェールズの森林を約300マイル(約483キロメートル)歩く旅を始めた時に、私が抱いていた疑問でした。私が歩くことを決めたのは、「ウェールズ人であることの本質に自然や生物多様性への感謝を組み込む」という大胆な政府の戦略「新たなウェールズの国立森林(the woodlands of Wales)」を聞いたからです。
この長期計画は、新しい森林の植樹と古代の森林の復元を含め、特に在来の落葉樹を育てることに重点を置きつつ、農業コミュニティと協力して彼らの土地での樹木被覆を改善することを目指しています。また、この計画は、地域社会や学校で自然の重要性を教育し、人々をウェールズの森林や林地と結びつける散歩道や山道、小道のネットワークを構築することも目標としています。
私は国立森林という概念に魅了され、それが私の新しい本を構成するアイデアとなりました。もし私が、森林を自由に歩くことができ、歩道を地図に描くことができるとしたらどうなるでしょうか?
私は南ウェールズのウェントウッドの森から歩き始め、数日間で古代ローマの町カエルレオンを通り抜け、西へ進んでニューポートに向かい、カエルフィリーのノルマン城を経て、最終的にロンダ渓谷の炭鉱コミュニティにたどり着きました。
歩いている中で、私は、何千年にもわたりどのようにして私たちが自然とのつながりを失ってきたかに気付き、学び始めました。ケルト時代に始まり、ローマ人やノルマン人によって加速された森林伐採や、集中的な石炭・鉄の産業化がいかにして人々を自然界から遠ざけ、最終的にほとんどの人々を都市に移住させたのかを調査しました。しかし、私はまた、いくつかの都市や農村のコミュニティが新しい森林の植樹、教育プログラム、ウォーキングやサイクリングのコースを通じて、自然とのつながりを再び取り戻そうとしている様子も目にしました。
スウォンジー渓谷の頂上で、バナイ・ブラヘイニオグ(Bannau Brycheiniog:ブレコンビーコンズ)の西端に位置する堂々たるブラックマウンテンに登りました。そしてそこからは、カーマーゼンシャーの起伏に富んだ農地と、美しくも寂しげなケレディギオンのカンブリア山脈へと進んでいきました。ここで、私はウェールズの伝説、民間伝承、文化において、自然がどれだけ長い間崇拝されてきたのかを悟り始めました。
ブラックマウンテンの麓にある、13世紀に活躍した有名な薬草医(マドヴァイの医師たち)が住んでいたと言われる村を訪れました。伝説によれば、彼らは妖精の女王、湖の貴婦人リン・ア・ヴァン・ヴァフ(the Lady of Lake ‐ Llyn y Fan Fach)の息子たちで、彼女から自然を利用して患者を癒す方法を教えられたとされています。私はデビルズ・ブリッジのすぐ南に位置する18世紀のハヴォッド・エステート(Hafod Estate)を歩きました。そこは、スケッチや詩でウェールズの自然美を称賛し、ロマン主義運動の一派だった、JM・ターナーやウィリアム・ワーズワースのような芸術家や作家などを魅了しました。そして、広大な森林や敷地への敬意として、トーマス・ジョンズによって「ピクチャレスク(the Picturesque)」が設計され、形作られました。
私はケレディギオンを北へ抜け、ウェールズ・コースト・パスを歩いてマハンスレスへと向かいました。ここは、1404年に最後のウェールズ生まれのプリンス・オブ・ウェールズ、オワイン・グリンドゥール(Owain Glyndwr)が、ウェールズを統一し、単一国家のアイデンティティを確立しようという、短命ではありますが勇敢な試みの下、セネッズ(議会)を設立した場所です。何世紀も後に、ウェールズが1997年の国民投票で自治国家となり、セネッズ(ウェールズ議会)が設立されたことで、グリンドゥールの使命はある程度実現されました。この国立森林の創設に向けた取り組みは、ウェールズ独自の発展と進展における新たな一歩であり、自然への敬意を基盤としたものです。
1994年、コスタリカは「すべての人が健康で生態学的にバランスの取れた環境を享受する権利」を憲法に明記しました。これは、大規模な植林と森林再生の計画に投資することで、コスタリカの熱帯雨林の無謀な伐採を阻止するという、1980年代に下された決定に基づいています。それ以来、コスタリカは、環境に配慮した観光業を基盤に経済と国際的なイメージを形成し、自然への感謝を国民的アイデンティティの中心に据えてきました。
他の国々も、自然の保護を政策、法律、文化の中心に据えるための取り組みを進めています。2008年、エクアドル政府は憲法に「自然の権利」という新しい条項を追加しました。ニュージーランドでは、マオリ民族が政府と協力して、ワンガヌイ川の法的権利を確保しました。これにより、土地は人間が所有するものではないという、伝統的なマオリの世界観を再確認することができました。また、コロンビアでは、最高裁判所がアマゾンを保護、保存、再生する権利を持つ法人であると宣言し、州に対して森林伐採の削減を命じました。
ここウェールズでは、すでに人々を自然と結びつけるための重要なステップを踏んでいます。2015年、ウェールズ政府は「 未来世代のためのウェルビーイング法(ウェールズ)」を制定し、経済と地域社会の持続可能な発展を政策の中心に据えました。重要なのは、この法律がすべての公的機関に対し、その影響と共に生きなければならない未来の世代を考慮し、その影響を評価することを義務づけている点です。経済成長の観点だけでなく、環境や自然への影響、コミュニティの社会的福祉や健康の観点からも決定を考慮することが求められています。
このように、自然との調和を基盤とした国民的アイデンティティを形成するための枠組みはすでに存在しています。これには、私たちの現在の生活や働き方を形作る経済、金融、法律、農業といった多くのシステムを再考する必要があります。その際に、「ウェールズの国立森林」の戦略は、自然の中で暮らしながら国が繁栄するための重要な役割を果たせるものと私は確信しています。
ウェールズ語に「ドォド・アノール・アット・ヴァンホエド(dod yn ôl at fy nghoed)」という表現がありますが、これは「心のバランスの取れた状態に戻る」という意味です。その直訳は、非常に美しく「私の木々に戻る(to return to my trees)」となります。これは、ウェールズの森林を歩いた私の気持ちを見事に表現しており、未来のウェールズへの希望を与えてくれました。
マシュー・ヨーマンズ氏は、カロン・ブックスから出版された『私の木に戻る‐ウェールズの森林からの手記(Return to My Trees – Notes from the Welsh Woodlands)』の著者です