日本で生まれた祥子さんが大学進学のためにウェールズへ訪れた時、彼女の音楽の旅が20年後にウェールズのブラスバンドと共に故郷の日本で演奏することになるとは、当時は予想もしていなかったでしょう。 

現在、イギリス有数の英語学習センターを運営し、世界中の人々に英語を教えている祥子さんは、トングウィンライス・テンペランス・バンドの一員として、ウェールズの首都カーディフ郊外、おとぎ話のような城がある小さな村のブラスバンドと共に帰郷公演を行います。

木々に囲まれた城 
トングウィンライスのカステル・コッホ城 

この公演では、東京の明治小学校や宇都宮ブラスソサエティ、埼玉プレミアブラスバンドと一緒に演奏する予定です。

この公演は、ウェールズと日本の間で築かれている多くの音楽的なつながりの一つであり、ウェールズ・ナショナル・オペラが進めている文化交流の取り組みのように、両国の創造的なコラボレーションを促進する活動の一環でもあります。 

9歳からユーフォニウムを演奏していた祥子さんは、イギリスのコメディ映画「『ブラス!』(Brassed Off)」を観たことでブラスバンドに出会い、それがきっかけでプロのブラスバンド奏者を目指すようになりました。

そして、ブラス音楽の最高峰の教育を受けるために海外への留学を決意し、カーディフの英国王立ウェールズ音楽大学に進学することを決めました。 

大学の外観の景色
カーディフ王立ウェールズ音楽演劇大学

ウェールズに移住後、さまざまなブラスバンドで演奏した祥子さんは、2021年にトングウィンライス・テンペランスバンドに加入し、すぐにバンドの中心メンバーとなりました。

そして現在、30人編成のバンドは日本で演奏するために世界中を回り、新しい道を歩みだしました。バンドの137年の歴史において、重要な新しい一歩が踏み出されたのです。 

バンドは2025年4月14日から21日までの1週間、東京エリアでツアーを行い、埼玉プレミアブラスバンドをはじめとするバンドと共にコミュニティ演奏を行います。祥子さんと仲間の演奏者たちは、ヴィヴァルディの『四季』を初演奏します。

この世界的に有名なクラシックオーケストラのために作られた作品を、ブラスバンドの編成で演奏するのは初めての試みです。 

ウェールズと日本の旗が背後にある立って微笑む女性
Shoko

また、バンドは東京の明治小学校を訪れ、日本で最も優れた小学校のブラスバンドと共に、『ウェールズの歌』を演奏します。この曲は祥子さんが依頼し、フィリップ・ハーパーが作曲したものです。演奏にはウェールズの詩と映像が加わり、ウェールズを世界に紹介する目新しい方法となります。 

このツアーは、祥子さんが資金援助を申請したことをきっかけに、ウェールズ政府の国際交流プログラム「Taith(ウェールズ語で“旅”)」から資金提供を受けて実現しました。

今回の訪問は、両国が互いに学び合い、つながりを祝うとともに、新たな絆を築くための貴重な学びの機会となります。 

「子供の頃、『ブラス!』(Brassed Off)』を観てからブラスバンドが大好きになりました。また、ウェールズのブラスバンドが鉱山のコミュニティにルーツを持っているところが好きです。私の祖父とおじも日本の鉱山で働いていました。

ブラスバンドと一緒にいると、すごく落ち着きます。また、日本で始めたことウェールズでも続けたことで、二つ故郷が近くに感じられることができて嬉しいです。 

イギリスのブラスバンドは長い歴史がありますが、私が育った頃、日本ではあまり一般的ではありませんでした。

しかし、過去20年間で、日本ではブラスバンドの数やその文化が大きく成長しています。さまざまなバンドと一緒に演奏し、新しいアイデアをウェールズに持ち帰ることができるのは光栄なことです。

日本のブラスバンドコミュニティは、ずっとウェールズやイギリスからインスピレーションを受けてきました。 

個人的には、友達や家族の前で演奏できるのが本当に誇らしく、ウェールズという私の新しい故郷のことを語りながら演奏できるのが嬉しいです。」  

ウェールズに移住する際、言葉の壁を課題としていた祥子乗り越えなければならないことと考えていた祥子さんは、4年間の音楽学位の前にケルティック・イングリッシュ・アカデミーに入学しました。 


学位を取得した後、祥子さんはロンドンでインターンシップを始めましたが、すぐにウェールズの温かさを恋しく感じるようになりました。そして、彼女は再びカーディフとケルティック・イングリッシュ・アカデミーに戻り、日本や世界中からウェールズに来る人々が自分と同じ素晴らしい体験をできるようにしたいと考えました。

この経験がきっかけで、祥子さんはこの学校で働き始め、7年後には最高経営責任者(CEO)に就任しました。 

「ウェールズに移住して本当に良かったです。ウェールズの人々はとても温かく親切です。カーディフは活気ある首都でありながら、とてもリラックスした雰囲気があります。ロンドンからもわずか2時間なので、物足りないとは感じません。」 

「ここにいると、ずっと家にいるような気がします。日本にいる家族からは、今や私は日本語を母国語のように話すウェールズ人だと言われています」 

祥子さんの物語は、ウェールズと日本の間にある数え切れないほどのクラシック音楽のつながりの一つに過ぎません。

例えば、世界的に有名なバリトン歌手ブリン・ターフェルが日本を何度も訪れたことや、尾高忠明氏が BBCウェールズ国立管弦楽団から大阪フィルハーモニー交響楽団へと進んだ指揮者としてのキャリアなどがあります。 

関連情報