ウェールズと映画の関係は1898年に遡ります。当時、先駆的なウェールズの映画制作者アーサー・チータム氏が、子どもたちがビーチで遊ぶ様子を撮影した映画を満員のリル市庁舎で上映しました。上映時間はわずか数分で音もありませんでしたが、観客は非常に驚き感心しました。
今日、ウェールズ映画は通常より長く、やや刺激的な台本で構成されており、映画ファンを魅了し続けています。クリエイティブ・ウェールズが資金提供するフィルム・ハブ・ウェールズ(Film Hub Wales)や、メイド・イン・ウェールズ・プロジェクト( Made in Wales project)は、ウェールズの映画制作者が作品を発表する場所を確保できるように取り組んでいます。これは映画愛好家にとっても、ウェールズ全体にとっても素晴らしいニュースであり、映画は国際的な視点でウェールズのイメージを形成する重要な役割を果たしています。
必見のウェールズ映画
ウェールズで生まれた豊かな物語のいくつかを味わってもらうために、フィルム・ハブ・ウェールズのメイド・イン・ウェールズを担当するラーダ・パテルさんが、ウェールズ映画の初心者向けに7本の映画を選びました。古いものから新しいものまで含まれるこのセレクションでは、ウェールズの映画制作者が共鳴するテーマやジャンルを知ることができ、ウェールズの文化、ユーモア、そして価値観を垣間見ることができます。
1.『グレエーズ(Gwledd)』(英名:ザ・フィースト‐The Feast) (2021年)
概要: ウェールズには素晴らしいホラー映画の過去作品があり(これは、1941年のクラシック映画『狼男(The Wolf Man)』の舞台がウェールズだったことが由来しているのでしょう)、『グレエーズ(Gwledd)』は観客を恐怖に陥れる最近の作品の一つです。
2021年にアメリカのサウス・バイ・サウスウェスト映画祭で初上映されたこの映画は、裕福な家族が田舎の土地を水圧破砕(フラッキング)会社に売却する取引を画策するディナーパーティーを中心に展開します。しかし、イベントのために雇われた謎のウェイトレスの存在により、計画は最も恐ろしい形で崩れていきます。エコ・ホラーと形容されるこの奇妙な寓話は、ウェールズ語で書かれ、ウェールズ中部の雄大な風景を背景にしています。
観るべき理由: 「私がこの映画を好きなのは、『ゲット・アウト(Get Out)』や『壁の中に誰かがいる(The People Under the Stairs)』のような人気ホラー映画、さらにはウェールズ映画『映画検閲(Censor)』と同じように、強い社会的意識が込められているからです。この作品には、ウェールズの地域社会の衰退や地元との精神的な繋がりについての強いメッセージが込められています。それは今のウェールズが直面している非常に現実的な問題、別荘の所有権や地域社会の喪失、住宅や家賃の高騰をめぐる課題と一致しています。」
視聴場所: Amazonプライム、Apple TV、YouTubeプレミアム
2. 『ザ・トール(The Toll)』(2021年)
概要: ウェールズ版の西部劇とはどんなものだろうと気になったことはありませんか?「ウェールズのワイルド・ウェスト」と呼ばれるペンブルックシャーを舞台にした『ザ・トール』は、ウェールズで最も静かな料金所を運営する男を描いた風刺的なコメディです。謎めいた男のぞっとするような過去が明らかになり始めると、この静かなウェールズの町に混乱が広がります。
馬やカウボーイハットは登場しませんが、不気味な主人公がいて、銃撃戦が1~2回起こります。西ウェールズの広大な海岸が、アリゾナやニューメキシコのような人影のない砂漠の風景の役割を果たしています。
観るべき理由: 「『ザ・トール』は、さまざまな理由で本当に素晴らしい映画です。独特のスタイルで、新しいウェールズ映画の流行を象徴するような、とても冷静で映画らしい雰囲気があります。そして、とにかく笑える作品です。登場する人々は風変りで、典型的なウェールズ人のタイプではありませんが、親しみやすいタイプの人々です。この映画は、ウェールズの観客を意識して作られた作品です。」
視聴場所: Amazonプライム
3. 『ア フワレルウル(Y Chwarelwr)』(1935年)(英名:クオリーメン‐The Quarrymen)
概要: 『クオリーメン』は、初のウェールズ語の映画です。それにふさわしく、ウェールズの歴史と独自性を形作る上で重要な役割を果たした鉱業が舞台です。
このフィクション映画はブレナウ・フェスティニオグを舞台にしており(ブレナウ・フェスティニオグのアマチュア劇団のメンバーが出演)、北ウェールズのスレート鉱山で働く人々の日常生活を誠実に描き出しています。過酷な労働の危険性に焦点を当てる一方で、密接な地域社会での友情や連帯感も強調されています。この映画のシーンの多くは、当時まだ稼働していたスレフウェッズ採石場で撮影され、現在では鉱山ツアーを提供する観光地となっています。
観るべき理由: 「私がこの映画で最も気に入っているのは、そのトーンです。この時代の炭鉱労働者たちの生活を美化していない点が素晴らしいと思います。実際のところ、彼らは生計を立てるために文字通り日中の生活を犠牲にしていました。同時に、彼らの苦労を誇張するわけでもなく、人生が厳しかったにもかかわらず、地域社会とお互いを支え合うことが彼らの支えになっていたことを強調しています。」
視聴場所:BFIプレイヤー(イギリス国内のみ)
4.『私は魔女ではない (I Am Not a Witch)』(2017)
概要: ザンビアを舞台にした神秘的なドラマ映画『私は魔女ではない』は、第91回アカデミー賞の外国語映画部門においてイギリス代表作品に選ばれました。また、ザンビア出身でウェールズ育ちのルンガノ・ニョニ(Rungano Nyoni)監督は、2018年のBAFTA新人賞を受賞しています。
この映画は、魔女であるとの有罪判決を受けた少女シュラの人生に焦点を当てています。テレビのトークショーに出演したり、ヤギに変えられるという常に付きまとう恐怖にさらされるなど、その判決が彼女の人生に与える不気味な影響を描いています。
観るべき理由:「ウェールズが舞台ではなくても、ウェールズ映画と呼ぶことはできます。『私は魔女ではない』はその成功例です。この映画は、ウェールズ出身の映画監督による物語の名作です。カンヌ映画祭で上映されたとき、観客は立ち上がり、拍手喝采を受けたのを覚えています。次回作でも、ルンガノ・ニョニ監督を同じように称賛できることを願っています。」
視聴場所:Amazonプライム、Netflix、Apple TV
5. 『ドナ(Donna)』 (2022)
概要: ウェールズ出身の映画監督ジェイ・ベドワニ(Jay Bedwani)氏は、デビュー作『ドナ』の制作のためにウェールズの首都の街並みをサンフランシスコの賑やかな大通りに置き換えました。このドキュメンタリーは、著名なトランスジェンダー活動家でサンフランシスコの華やかに女装する男性界の伝説的存在であるドナ・ペルソナの人生を追っています。彼女は、米国史上初のLGBT関連の暴動の一つである1966年のコンプトン・カフェテリア暴動についての演劇の脚本を執筆するという課題に挑む一方で、非常に信仰深い疎遠な家族との再会を試みます。
もともとは10分間の短編作品『私の母(My Mother)』として制作され、ヨーロッパ最大のLGBT映画祭であるアイリス賞のイギリス最優秀短編映画賞を受賞しました。この映画は、地域社会活動、そして自分らしくあることの重要性を描いた物語です。
観るべき理由:「ウェールズ映画の歴史上で初めて、1年の間に2つのトランスジェンダーをテーマにした物語が公開されました(もう1つは『ヒジュラであること(Being Hijra)』です)。『ドナ』は、この作品で監督デビューしたジェイ・ベドワニ氏によって美しく描かれた、親しみ深く高揚感のある映画です。特にウェールズの若いトランスジェンダーの人々にとって、非常に重要な時期に公開されました。これは、現在ウェールズから発信されている映画の多様性を示す証でもあります。」
視聴場所:Google Play、YouTube プレミアム
6. 『ダークホース (Dark Horse)』(2015)
概要: 家族向けの感動映画『ドリームホース(Dream Horse)』が脚光を浴びる前に、ウェールズの小さな町の住民たちが集まり、チャンピオン競走馬を購入し訓練するという実話をより本格的に描いた、ドキュメンタリー映画『ダークホース』が公開されました。
サンダンス映画祭でワールドシネマドキュメンタリー観客賞を受賞したこの映画は、この驚くべき出来事の中心にいる人々へのインタビューに重点を置いています。この映画では、おそらく大ヒット版の華やかな物語にはない、実際の喜びや苦しみ、困難についての洞察が描かれています。
観るべき理由:「このドキュメンタリー映画はウェールズの経験を率直にまとめたものだと感じます。私たちウェールズ人は、民族自決権を持ち、お互いに支え合う地域社会があります。しかし私は、ここで描かれている雇われた中産階級の調教師が表現しているように、世界の他の国々は私たちが本当に達成できるという事を信じていないように感じます。この映画は、その偏見を克服することがテーマです。文脈から外れると少し楽観的に聞こえるかもしれませんが、ケヴィン・フォレストの地元の人々はこの馬を軽い気持ちや冗談で引き受けたわけではありませんでした。彼らは勝つと決意しており、実際に勝ちました。私はそこが大好きです。この映画は素晴らしい映画です。」
視聴場所:Apple TV
7. 『ベリー・アニー・メアリー(Very Annie Mary) 』(2001)
概要: 2022年の大ヒット作『セーブ・ザ・シネマ(Save the Cinema)』(これもウェールズ映画です)を監督するかなり前に、サラ・シュガーマン(Sara Sugarman)は『ベリー・アニー・メアリー』という親しみ深い成長物語を世に送り出しました。
このミュージカル・コメディ映画は、主演のアニー・メアリーを中心に展開します。彼女はスターになれると信じている有望な歌手ですが、故郷に縛られている自分を解放するのに苦労しています。映画の舞台となるのは、ウェールズの村ブリジェンドをモデルにした架空の村オグです。
観るべき理由:「ニューヨーク・タイムズがこの映画について「その可愛らしさに窒息しそうだ」と皮肉を言ったのを覚えています。これは、もっと多くのウェールズ映画評論家がウェールズ映画を評価する必要があることを示していると思います。一般的に評論家は、ウェールズ映画をシリアスで暗いものにしたがりますが、この作品には困難がある一方で、たくさんの喜びもあります。そこには、キャリア面での制限や、家族からの制限を克服するという素敵なメッセージがあります。それがこの映画を本当に特別なものにしていると思いますし、「可愛らしい」とは決して言えません。」
視聴場所:DVDで購入可能
もっとおすすめ映画をお探しですか? ラーダさんが選んだ他の素晴らしいウェールズ映画には以下のものがあります。
『ア・ウェイ・オブ・ライフ(A Way of Life)』
『アノラック(Anorac)』
『エターナル・ビューティ(Eternal Beauty)』
『スリープ・フューリアスリー(Sleep Furiously)』
『センソー(Censor)』