1990年代から2000年代初めにかけて、ウェールズ代表サッカーチームのキャプテンを務めたローラ・マカリスターさんは、現在、UEFA女子サッカー委員会の副会長であり、ウェールズサッカー協会の理事、およびカーディフ大学の公共政策とウェールズの統治の教授を務めています。
ここでは、ローラさんが、サッカーがどのようにしてウェールズの国民に浸透したのか、国を挙げてサッカーの成長を促すことの重要性、そしてこのスポーツがいかにしてウェールズを世界に売り込むための手助けとなるのかについて、彼女の見解を語ってくれます。

旅路の一部であること

ウェールズ代表でプレーしていた時間をとても誇りに思っています。もちろん、当時(90年代)の経験は、現在の国際選手としてプレーする彼女たちの経験とは大きく異なっていました。私たちには本当に最低限の財源しかなく、ユニフォームでさえ中古品や男性用のXXLサイズでした。それでも、私たちは優秀で技術力を持ったチームでしたので、ウェールズの赤いユニフォームを着ることができたことに皆、誇りと喜びを感じていました。

 

完璧ではなかったかもしれませんが、それはウェールズにおける女子サッカーの現状に至る旅路への一歩でした。最近の試合では、15,000人を超える記録的な数の観衆を集めています。

ウェールズのサッカーの観衆
大勢のウェールズのサポーター
ウェールズのサッカーファン

10年間の成功

 

ウェールズには長くて多彩なサッカーの歴史がありますが、代表チームのサポートに関して言えば、成功こそが関心を引きつけるのに役立つということです。男子チームがユーロ2016に出場しただけでなく、準決勝まで進出する見事なパフォーマンスで大会に旋風を巻き起こした功績は、国際試合の人気を新たな人気へと押し上げ、同時に、ウェールズをサッカー大国として世界の舞台に進出させました。

 

ウェールズが人々に感動を与えたのは、ピッチの上だけではなかったと思います。サポーターは非常にマナーが良く、彼らも国の代表としての役割を果たさなければならないという世評へのプレッシャーを喜んで受け入れてくれました。情熱的でありながら敬意を忘れないこのサポーターの精神は、ウェールズのサッカーの主体性にも吸収されていると感じます。

ツアーバスの上に乗って下の観衆に手を振るウェールズのサッカーチーム
ツアーバスの上に乗って下の観衆に手を振るウェールズのサッカーチーム
ウェールズのサッカーチームの帰国

とてもウェールズらしいサッカー

ウェールズサッカー協会 (FAW) が近年行った重要な取り組みの1つは、選手たちがウェールズの歴史と文化を受け入れるよう支援することです。例えば、男子チームと女子チームは、1966年の炭鉱事故の現場であるアベルヴァンや、第一次世界大戦中に亡くなった有名なウェールズの詩人であるヘズ・ウィンの墓(ベルギーにあります)を訪れました。その結果、選手たちは私たちの遺産についての知識を深めており、それがサポーターにも影響を与えていると思います。選手とサポーターの間には国全体で非常に強い感情的なつながりがあるため、サポーターもより多くのことを学ぼうとするようになります。

 

サッカーにおけるウェールズ語の使用を定着させるための意図的な取り組みも行われてきました。例えば、私たちは、代表チームを「カムリ(Cymru)」(ウェールズ語で「ウェールズ」を表す)と呼んでいます。しかし、これは国歌やスタンドで人々が歌う愛国的な歌「アマ・オ・ヒード(Yma o Hyd‐まだここに)」などを通じて、自然な形で定着しています。これら全てが、ウェールズのサッカーとウェールズ文化の間に絆を生み出し、私たちがこのスポーツに紛れもないウェールズらしさを刻み込むのに役立っています。

ウェールズのサッカーの試合で笑顔で応援する観衆
ウェールズのサッカーファン

世界の舞台でウェールズを売り込む

サッカーがウェールズの知名度を高める上で果たす役割は、おそらく他のどんなものよりも大きく、広範囲に及ぶでしょう。なぜなら、サッカーは真に世界的なスポーツだからです。

 

2022年のワールドカップは、4歳以上の世界人口の半数が観戦したと報告されており、彼らが目にするのは、私たちの旗、国歌、言語、サポーターを持つチーム・カムリであり、イングランド(グループステージで対戦しました)や他の国とは違うということを認識するでしょう。これは、貿易や観光の促進から国際教育の分野に至るまで、あらゆる面にとって重要です。

The silhouette of three people holding Wales flags.

模範となる人物の創出

特に女子チームにおいて、現在の熟練国際選手たちは、次世代に影響を与える責任を非常に真剣に受け止めています。女子選手たちは、自身の経験した性差別や人種差別、あるいはLGBTのメンバーにとっては、同性愛嫌悪やカミングアウトについて語ることをいといません。

 

彼女たちは、自分たちのスポーツに政治的なものが関わることに対しては、非常に寛容であり、その姿勢が一般の人々にさらに魅力的に映ると思います。また、それによって、ウェールズが包括的で、世界中の人々を歓迎する国だという印象を与えることにもつながっています。

サッカーの試合で赤いシャツを着た観衆
ウェールズのサポーター

成長の管理

サッカーは、ウェールズで最も参加率が高いチームスポーツであり、その人気は今後もさらに高まると考えています。しかし、その成長を適切に管理しなければ、バランスを欠いた形で成長してしまいます。したがって、自然な流れでは、女子や女性がプレイするための特別な環境を整えない限り、男子や男性のプレイヤーが増える一方でしょう。

 

サッカーは誰もが楽しめるスポーツであり、このスポーツがもたらす健康や社会的な利益は全ての人が享受すべきです。それには、若い女子だけでなく、障害を持つ人々や、特にプロのトップレベルにはあまり代表がいない黒人や少数民族のグループにも扉を開くことが必要です。

 

これに関連して、私たちはサッカーをより持続可能なスポーツにしたいと思っており、特に環境面において、スポーツの将来を守るためにグリーン政策を導入し、ウェールズの先進的な「未来世代法」と連携していきたいと考えています。

ウェールズのサッカーの試合に集まった人々

ウェールズの国技としてのサッカー

サッカーとラグビーのどちらがウェールズの国民的スポーツか、について議論されることがよくありますが、私はそれを「どちらか一方」という問題だとは思っていません。どちらのスポーツもウェールズの人々にとって非常に重要であり、多くの人が両方をプレーしています。そのため、両者はウェールズのスポーツ環境におけるパートナーであり、協力する必要があると考えています。

 

さらに、ウェールズではサイクリングやテコンドー、ボクシングといった他のスポーツでも大きな成功を収めています。ですから、これらのスポーツも国民的スポーツとして主張することは十分にできるでしょう。

 

ラグビー対サッカーの議論は、パブで飲みながら楽しんでもらえればいいと思います。私にとってはどちらも国民的スポーツですし、他にも多くのスポーツがウェールズの国民的スポーツだと思います。それら全てに、私たちの国民意識の中に居場所を与えるべきです。

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