その映画に登場する風景やキャラクターはどこか異世界的に感じられるかもしれませんが、実はジブリの物語の多くは現実に基づいており、驚くことにそのインスピレーションの多くは、ウェールズに由来しています。

スタジオジブリは1985年、宮崎駿氏、高畑勲氏、鈴木敏夫氏によって設立され、最初のアニメ映画『天空の城ラピュタ』の制作に取りかかりました。この映画のインスピレーションは、前年に2度宮崎駿氏がウェールズを訪れた際の体験から得ています。

宮崎氏が南ウェールズの谷で過ごしていた時、1984年から1985年にかけての炭鉱労働者のストライキの影響を目の当たりにし、その中で必死に生計を守ろうとするウェールズの炭鉱労働者たちの姿に深い感銘を受けました。

その姿は、日本における炭鉱労働者たちの苦境を思わせ、彼はその不屈の精神を『天空の城ラピュタ』の中で表現しました。映画では、世界の両側で急速に消えゆく炭鉱のコミュニティへの敬意を込め、鉱夫たちを英雄として描いています。

映画では、鉱夫たちは悪役から二人の主人公を助けるヒーローとして描かれています。

宮崎氏が映画で描いた村の風景、丘の斜面に沿って並ぶ小さな家々は、南ウェールズの鉱山谷で見た光景が元になっています。

しかし、映画のストーリーだけでなく、そのデザインの要素にもウェールズの影響が色濃く反映されています。

ウェールズを訪れていた宮崎氏は、ケアフィリ城、カーナーヴォン城、パウィス城という三つの象徴的な城を見学する機会を得ました。

その中世の建築に感銘を受けた宮崎氏は、それらを『天空の城ラピュタ』の城のデザインに取り入れました。

ポウィス城
ケルフィリー城と周囲を囲む堀の空撮

また、宮崎氏のウェールズへの想いは、その後も彼の作品に影響を与え続けました。

例えば、スタジオジブリの2004年のアニメーション『ハウルの動く城』は、第二次世界大戦中にウェールズで育った作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジー小説が基になっています。

ジョーンズの本は、異世界に入ったウェールズ人が魔法使いになり、最終的にはスウォンジーの現代的な家を訪れるというものです。

映画では、ジョーンズの物語を架空の世界に移し替えたものの、ウェールズを背景にした緑豊かな自然や、風情ある村々、広がる丘陵が随所に描かれています。

映画『ハウルの動く城』では、登場人物のハウルが英語版でウェールズ語を一言発するシーンもあり、これはアニメにおいてウェールズ語が登場する珍しい例です。このことは物語のウェールズの遺産への敬意を示しています。

また、スタジオジブリの他の作品にも、ウェールズの文化や神話、伝説からインスピレーションを受けた小さな要素が散りばめられていると言われています。

多くの作品に共通するテーマは「レジリエンス(回復力)」「コミュニティ」「自然とのつながり」で、これらはすべて宮崎氏がウェールズの人々に敬意を抱いていた特徴です。

そして、約50年が経った今もなお、宮崎氏がウェールズのロンダ谷やウェールズの城で見たものが、スタジオジブリの映画に息づいており、次の世代にも楽しまれていくでしょう。

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